定住者と別荘利用者の温度差によるトラブルに注意

理想のリゾートマンションライフに終止符を打った理由

 

海を眺め、温泉に浸かり、ゆったりと暮らす熱海でのリゾートライフ。筆者自身、それに憧れ、リゾートマンションを購入して移住しました。しかし、そのマンションは4年で売却し、現在は中心部から少し離れた賃貸住宅に仮住まいしながら、戸建てを建てるための土地を探しています。

 

購入したマンションは、駅から近く、オーシャンビューで、花火も見え、広々とした大浴場も付いているにもかかわらず、1500万円台とリーズナブルで、まさに理想的な物件でした。しかし、なぜ4年で手放してしまったのか?今回はその経緯をお伝えすることで、熱海のリゾートマンションに暮らすうえでの問題点を浮かび上がらせていきたいと思います。筆者の個人的な経験であり、稀なケースかとは思いますが、このようなことも起こりうるということを頭に入れておいていただければ、無用なトラブルを避けられるかもしれません。

 

同じマンション住民に誘われて理事に

 

筆者は、結婚を機に長年暮らした東京を離れ、熱海に移住しました。自然が豊かなところで子育てをしたいという妻の望みを叶えるためでした。仕事上、東京を完全に離れてしまうわけにはいかなかったため、東京からアクセスが良い熱海は理想的な立地だったのです。当時はコロナ禍で熱海の不動産バブルが起きる前でしたので、物件数も多く、駅近でも手の届きやすい価格でマンションが売りに出されていました。何件か内見をした結果、選んだのが、駅から徒歩5分ほどのリゾートマンションでした。間取りは2LDKで、1階でしたが斜面に建っているため眺望もまずまずでした。状態は良かったので、床をじゅうたんからフローリングに替えたり、クロスを張り替えるなどの簡単なリフォームを済ませ、移住を決めてから半年も経たずに引っ越しました。

 

永住までは考えていませんでしたが、それなりの広さがあり、幼稚園や小学校も近くにあったため、しばらく子育てもできるだろうとは考えていました。子供ができるまでは、夫婦で釣りやサーフィンをして、夜になれば街へ繰り出し、家に帰ったら温泉にどっぷり浸かるという生活を3年ほど続けました。月に数回は東京に行くこともありましたが、都会を離れたリゾートライフは、まさに別世界に生きているかのように充実したものでした。

 

同じマンションの住民とも顔見知りになり、一人暮らしをしている年配の女性とはお互いの部屋を行き来するほどの仲になりました。そんなある時、「マンションの理事会は輪番制なので、いずれ理事をやらないといけない時が来る。だったら私と一緒に理事になって先に済ましておかない?」と言われたのです。筆者は面倒だなとは思いながらも、知り合いがいた方が心強いと思い、その女性と一緒に理事に立候補しました。女性には、若い人に積極的に意見を出して欲しいという思いもあったようです。

 

熱海のマンションの理事会が東京で開催される

 

筆者にとって最初の理事会は住んでいるマンションで行われました。源泉からの配管が故障したため、修理をどうするか、他の源泉に替えるかなど、温泉付きのマンションらしい議題が挙がっていたのを憶えています。そして、最後に次回の理事会の開催について連絡がありました。ちょっと面食らったのですが、都内某所で行うというのです。熱海に暮らしていながら、なぜ都心まで出て行かないといけないのか?交通費は支給されるとのことでしたが、疑問は残りました。

 

2ヶ月後に開かれた理事会へは、筆者を誘ってくれた女性(ここからは仮にFさんとしましょう)と一緒に新幹線で向かいました。理事会は毎回、休日に行われるため、仕事のついでにというわけにもいきません。その日は雨で足元が悪かったこともあり、高齢のFさんは都内まで出るのが大変だと愚痴をこぼしていました。「なんで東京で開催するんですか?」とFさんに尋ねたところ、「昔の理事会でそう決まったの。うちのマンションは別荘利用で普段は東京に住んでいる人が多いので、理事会を2回に1回は東京でやって欲しいという意見が出て、それが通っちゃったの」とのこと。

 

腑に落ちないまま、理事会に参加しましたが、一人の元々足の悪い理事の女性が、途中で滑って怪我をしたので参加できなくなったという報告から始まりました。高齢者や足が不自由な人をわざわざ都内まで呼び寄せることも問題だと思いましたし、そもそも熱海にマンションを購入したにもかかわらず、理事会のために熱海に行くのが面倒というのは、おかしな話だと感じました。そこで、理事会の後、Fさんと次回は理事会を熱海のみで開催するように提案しようという話をしてわかれました。

 

定住者と別荘利用者の価値観の違い

 

そして、次の理事会でそれを議題に挙げたところ、一人が頑なに拒否しました。それなら自分は理事会に参加しないと。彼はマンションを所有して、賃貸に出している人でした。理事長に意見を求めたところ、元々、リゾートマンションは別荘として建てられているのだから、東京など外から来る人の利便性も考えなければならない。だから、今の体制で問題はないと言い切りました。理事長は別荘利用者でした。実際、駅からのアクセスが良い筆者のマンションは、別荘利用者が多く、定住世帯はおそらく全体の3割程度でした。その分、静かで温泉もゆっくり利用できたのですが、この定住者と別荘利用者の割合が問題をはらんでいることを後々思い知らされます。

 

理事会を熱海のみで開催するという案は、多数決で否決されました。理事会のメンバー構成をFさんに聞いてみると、定住者と別荘利用者は大体半々だとのこと。バランスを取ろうとしている意図は汲み取れましたが、生活の場としている定住者と宿代わりにしている別荘利用者とでは、そもそもマンションに対する価値観が大きく違います。普通のマンションでも理事会のトラブルはよく聞く話ですが、リゾートマンションの場合、こうしたスタンスの違いがトラブルの火種になりかねないと、この時からうっすらと感じていました。

 

駐車場不足にあえぐ熱海

 

熱海に移住して3年後、妻が妊娠しました。折りしもコロナ禍が猛威をふるい始め、県をまたぐ移動の自粛が要請されていた頃です。他の移住者に話を聞くと、マンションによっては県外からの利用者に自粛を呼びかけたり、玄関に消毒用アルコールや体温計を設置するといった取り組みが始まっているとのこと。しかし、私のマンションでは、そうした取り組みは全く無く、県外から避難してくる家族も多く見られました。妻が妊娠してデリケートになっている時期でしたので、そうした対応の遅さに正直、苛立ちを感じていました。

 

移住して4年目に、男の子が誕生しました。しかし、2ヶ月早い早産で未熟児。しかも、生まれた時は心肺が停止しており、重症新生児仮死と呼ばれる危険な状態でした。そのため、息子は2ヶ月間、車で30分ほどかかる場所にある病院に入院することになりました。それから筆者は、妻と息子の面会と搾乳した母乳を運ぶため、週に3〜4回、病院まで車を走らせる生活を続けました。コロナ禍により母親以外は面会が禁止となっていたため、なんとももどかしい日々が続きました。

 

そんな時、駐車場の抽選があるという連絡が管理会社から届きました。マンションには10台分の駐車スペースがあり、そのうち4台が月極となっています。残りのスペースは、たまに来る別荘利用者が日額を払って使用しています。月極枠は元々、定住者の利用を想定したもので、それ以外の6台分のスペースは、ゴールデンウィークや夏休み、年末年始を除いてはガラガラです。契約は2年ごとに更新され、その際に抽選が行われます。引っ越した当初は、月極を利用する人が少なく、私の車も含めて、ちょうど希望者の4台分で埋まっていたのですが、コロナ禍で定住者が増えたこともあり、抽選が行われることになったのです。

 

筆者は運が悪いことに、その抽選で落選してしまいました。熱海は傾斜地だらけなうえ、建物が密集していることもあり、慢性的な駐車場不足となっています。特に駅周辺の駐車場は争奪戦状態です。私はこういうケースも想定して、常に駐車場をチェックしていましたので、幸いにもマンションから少し離れた立体駐車場を借りることができました。しかし、息子はただでさえ心配な状態で生まれてきました。退院すれば一緒に暮らすようになりますが、何かあった時には目の前に停めてある車にすぐに飛び乗って病院に運ばなければと考えると、少しの距離や駐車場の機械を操作する手間すらも不安要素でした。

 

少ない月極枠を別荘利用者が占拠

 

そんな筆者に同情したのでしょう。Fさんが、私たち夫婦の様子を見に、部屋に遊びに来て話をしてくれました。

「月極にいま4台停まっているけれど、そのうち2台は置きっぱなしでほとんど乗っているところを見ないのよ。別荘利用の人なんだけど、普段は東京で車を使わない暮らしをしているから、駐車場代の安い熱海に停めているだけ。子供の様子を見に、毎日のように車を使っているあなたたちが月極を使えないのは可哀想だわ。理事会でなんとかならないかしら」

筆者は他の車の所有者を気にしたこともなかったのですが、そう言われればその2台が動いているところを見たことがありません。しかし、長年の定住者の間では、以前からそうした使い方は、駐車場に月極枠を設けた本来の意図とは違うのではないかと問題視されていたそうです。

 

その話を聞いて、筆者は少し調べてみました。すると、そうした利用の仕方は、厳密には「車庫飛ばし」と呼ばれる違法状態だとわかったのです。車を購入する際には、警察署に車庫証明を出さなければなりません。その際、車の所有者は自宅など“使用の本拠地”から直線距離で2km以内に車庫を有していないといけないのです。別荘のある住所でも車庫証明は取れますが、その場合は陸運支局でその住所のナンバーに変更してもらわなければなりません。ですので、筆者のマンションの駐車場のケースのように、普段マンションに住んでおらず、東京のナンバーのままで、車を停めっぱなしにしているのは、「車庫飛ばし」にあたります。警察にも相談をしたのですが、確かに違法状態ではあるが、そうしたケースは多いため、まずは理事会で解決を図ってほしいとのことでした。抽選で外れたのは仕方がないにしても、違法状態の車が月極枠を占有して、本来、生活に必要としている世帯が利用できないのは理不尽ではないか。そこで、筆者は次の理事会で議題にすることにしたのです。

 

別荘利用者サイドの理事長が下した結論

 

理事会での提案には気を配りました。抽選に外れたからゴネているだけだと思われないように、事実関係を丁寧に説明し、筆者の置かれている状況も伝えました。また、今後、こういうケースがあった時のためにも、駐車場の利用の仕方を皆さんに一考して欲しいという旨も伝えました。一部の理事からは確かにおかしいとの声も上がり、月極枠を増やす、月極枠を定住者が優先利用できるようにするといったアイデアも出ました。しかし、議論が進んでいる中で、理事長が突如こう発言したのです。「彼の言ってることは、ただの定住者のワガママだよ」と。確かに話の内容的にはそう受け取られかねない面はあります。理事長という役職を務めている以上、定住者と別荘利用者の温度差に配慮して、その溝を埋めるべく動くべきでしょう。しかし、その理事長は自ら両者の分断を煽るような発言をするのです。それに対して、筆者はもちろん抗議をしましたが、ワガママだと言って譲らない。結局、「車庫飛ばし」をしている所有者に、月極枠を譲る意思があるかどうかを確認するということになり、理事会は終了しました。

 

その後、管理会社から確認の結果、先方は月極枠を譲るつもりはないとの連絡がありました。これまでの経緯から、それ以上、交渉するのもストレスを抱えるだけだと思い、その場で了承しました。しかし、それから数週間後、理事会の議事録の素案が送られてきたのですが、そこには目を疑うような内容が書かれていました。議論を交わしたにもかかわらず、“理事の一人から月極枠を譲って欲しいという依頼があったが、規則に則って了承しないこととした”とだけ記載されていたのです。これでは、ただ筆者がゴネただけと受け取られますし、建設的な議論も交わされたのにそれが完全に無かったことになっています。すぐに管理会社に連絡をして、記載の修正を求めたところ、「理事長と相談の上この形にまとまった。内容に問題はない。このまま進める。理事に内容を修正する権限はない」の1点張りです。事実と異なる記載をするのなら削除するように伝えたところ、理事長が削除しなくていいと言っていると言い張ります。

 

理事を辞め、マンションを売却することに

 

埒が明かないため、Fさんに相談したところ、「この書き方はおかしい。私も色々な意見を出したのに、これでは理事会で議題に挙げて議論をした意味がない」と立腹していました。Fさんはすぐに管理会社に連絡し、記載の削除を働きかけてくれました。Fさんは、議事録に承認を出す捺印を押す役目を任されていたため、この内容なら捺印はしないと言ってくれたのです。その結果、駐車場に関する記載は削除されました。

 

筆者は次の理事会で、内容に問題が無いと私からの削除依頼を拒否したにもかかわらず、なぜ削除されることになったのか経緯を説明するように伝えました。すると、理事長と管理会社は、“済んだことを蒸し返すな。理事会に迷惑をかけるな”と結託して威圧してくるのです。私はその場で、「健全な理事会運営がなされているとは思えない。理事は辞めさせていただく」と伝えました。

 

その後、妻と相談して、このマンションは子育てに適した環境ではないという結論になり、ひと月も経たないうちにマンションを売りに出しました。幸いコロナ禍の真っ只中で、熱海は不動産バブル。情報掲載から1週間経たないうちに、購入価格の1.5倍で売却できました。

 

定住者と別荘利用者の温度差が生まれる要因

 

長くなりましたが、以上が筆者がリゾートマンションを引き払うに至った顛末です。その後も他のリゾートマンションに住む知人たちと情報交換をしましたが、やはり定住者と別荘利用者の割合でそれぞれ様相は違うようです。あるマンションでは定住者の割合が半分以上で、理事会は当然のごとく毎回、熱海で開催されている。東京で開催するなんて聞いたことがないとのこと。また、駐車場は定住者が優先的に利用できる状況にあるとのこと。こうした事情は、購入前にはなかなか分からないことですが、不動産会社に定住者と別荘利用者の比率を聞いてみるなどすれば、ある程度、リスクは回避できるかもしれません。

 

また、住み続けていると定住者と別荘利用者の温度差をさまざまなところで感じるかもしれません。定住者は日々、熱海のマンションに暮らし、温泉やジムなどの施設の恩恵を受けています。一方、別荘利用者は月1回利用するかどうか。それに対して、同じ管理費や修繕積立金を払っていることに不平を言う別荘利用者もいました。また、熱海には全国で唯一の別荘税というものがあります。これは道路や上下水道などのインフラの整備やごみ処理などの費用を別荘利用者にも負担してもらうためのものです。別荘利用者の中には、別荘税の負担がなく、悠々自適にリゾートマンション暮らしをしている定住者をやっかむ人もいるのです。

 

普通のマンションでも理事会トラブルは多く耳にしますが、筆者が経験したトラブルは、定住者と別荘利用者の温度差にも起因するリゾートマンションならではのものと言えるでしょう。決してネガティブになる必要はありませんが、最初からそういうこともあると頭に入れておけば、何かトラブルが起きた時に対処しやすくなるかもしれません。